工場では、コンクリート製の煙突が設置されている場合があります。

作業員はもちろん、周辺エリアへの配慮から定期的な点検が求められている煙突ですが、具体的にどのような方法で行われているのかご存知ない方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、RC造の煙突に対する点検項目を踏まえたうえで、シュミットハンマーテストの手順について解説します。

工場の煙突を点検する手順とは?

煙突の点検作業は、使われている材質によって方法が異なります。

▼煙突の製造に使われている主な材質

・鉄筋コンクリート(RC造)

・鋼板製(ステンレス製・SUS製)

 

特に、鉄筋コンクリート製(RC造)の煙突は、定期的な点検による安全性の確保が望まれます。

▼コンクリート製煙突の代表的な点検項目

・ひび割れ調査:目視/写真撮影/クラックスケール

・圧縮強度調査:ハンマーテストによる非破壊検査/サンプル採取による直接破壊検査

・コンクリートの中性化調査:アルカリテスト

・赤外線センサ調査:可視画像/赤外線画像

・附帯設備の調査:目視

 

ちなみに、煙突の点検については下記の記事でも詳しく解説しております。

 

▼関連コラム

煙突の点検調査には色々な種類があります。

煙突の点検調査は大切です。

シュミットハンマーテストの仕組みとは?

RC造の煙突を点検する方法としてコンクリート強度の測定があります。

コンクリート強度を点検する方法には非破壊検査と直接破壊検査の2種類がありますが、安全性や修復のリスクからハンマーテストが主流となっています。

ハンマーテストとは、煙突を壊さずに行う「非破壊検査」の一種で主にシュミットハンマーという名称の測定器が使われています。

つまり、シュミットハンマーテストとは点検中に煙突の設備を破壊することなく、打撃による反発度(R値)からコンクリートの圧縮強度を推定する点検方法です。

▼シュミットハンマーテストの仕組み

  1. バネを内蔵しているハンマーが、コンクリート表面を打撃する
  2. 反発度(R値)を強度推定式に代入して「圧縮強度」を推定する
  3. 圧縮強度の推定値に影響を与える要因を補正して、より正確な値を算出する

シュミットハンマーテストの手順と注意点

ここからは、シュミットハンマーテストの具体的な手順に沿って、測定時に注意すべきポイントを解説します。

なお、煙突の点検作業に用いるシュミットハンマー製品は各種メーカーが販売しておりますが、基本的なテストの手順に大きな違いはありません。

▼シュミットハンマーテストの手順

・測定箇所の決定

・測定日時の決定

・測定面の清掃・附着物の除去

・測定装置の点検

・煙突の硬度測定

 

ステップ1:測定箇所の決定とマーキング

最初に「測定に適した箇所」の選定を行います。

測定する場所の条件として下記の6つが挙げられており、最も重要なのが「濡れている箇所を避ける」ことです。

▼計測に適した箇所の条件

・コンクリートの状態:乾燥している

・コンクリート表面の状態:組織が均一な平滑面(砂利などが露出している場所を避ける)

・床からの高さ:少なくとも130~150cmの高さ

・出隅(みはし)からの距離:3cm以上、内側

・コンクリートの厚:10cm以上

・測定場所のスペース:20×20cm以上

 

なぜ濡れているコンクリートは測定箇所として相応しくないのか、その理由は気乾状態での測定結果と比べ、表面および内部に含まれている水分によって反発度(R値)の結果に誤差が生じてしまうからです。

▼コンクリートの状態と誤差の関係

・乾いているコンクリートで測定した場合:より正確な反発度が計測される

・濡れている、または湿っているコンクリートで測定した場合:本来の反発度より「小さく」なる

 

特に煙突を点検する際は、外側と内側の両方が乾いているかを確認しておかなければなりません。

とはいえ、季節要因や急を要する場合など、濡れているコンクリートでの測定が避けられないこともあります。

どうしても気乾状態が確保できない場合は、メーカーが推奨している補正値方法のマニュアルに従う、または国土交通省が定めている下記の対処法に沿って測定しなければなりません。

 

▼気乾状態で測定できない時の対処法

・明らかに濡れている場合:測定された反発度に「補正値5」を加える

・湿っていて打撃の跡が「黒点」になる場合:測定された反発度に「補正値3」を加える

 

ただし、水分によって生じる誤差の程度は一定ではありません。

そのため、補正値に頼らず「コンクリートが乾いている状態」で測定することが、最も理想的とされているのです。

ステップ2:測定日時の決定

濡れているコンクリートでテストを実施しても、正しい測定結果は得られません。

したがって、シュミットハンマーテストは雨や雪が降っている日を避けるのが基本です。

さらに注目すべきは、材齢によって硬度を表している反発度(R値)が変化なる、というコンクリートが持つ性質です。

▼材齢と(R値)の関係

・材齢が若いほど低くなる

・年数を経過するほど炭酸化し、傾向として反発度が高くなる

上記の性質を踏まえて、国土交通省では最適なテスト期間として材齢28日~91日を推奨しつつ、煙突の点検作業など範囲外の実施については下記の指針を定めています。

 

▼材齢28日~91日に測定できない場合の対処法

・材齢9日以前:実施は不可

・材齢10日:算出した推定強度を1.55倍に補正

・材齢20日:算出した推定強度を1.12倍に補正

・材齢10日~28日:比例配分した補正値で評価する

・材齢28日~91日:補正は行わない

・材齢91日以降:補正は行わない

 

ステップ3:測定面の清掃・附着物の除去

テストハンマーの測定面、つまりコンクリートの表面上は「鋼製型枠を使用したコンクリート表面と同等の平滑な状態」が最も望ましいとされています。

したがって、煙突点検の事前準備として砂利・小石・苔を清掃しておくのはもちろん、付着物も除去しておかなければなりません。

 

ステップ4:測定装置の点検

コンクリート製の煙突を点検する際は、テストアンビル(精度検定器)を使って試し打ちを行い、測定装置が正しく作動しているか確認しておきます。

特に下記ケースに当てはまる場合は、「バネの硬さ」および「作動部の摩擦調整」が変化している可能性が高いため、測定結果の正確性が損なわれることも珍しくありません。

▼試打ちが必須のケース

・長期間使用していない場合

・多数回、打撃した後

メーカーによって多少の差はあるものの、2,000~3,000回ごとに点検するのが一般的です。

 

ステップ5:煙突の硬度測定

測定の方法は機材のマニュアルに従うのが鉄則ですが、多くのメーカーに共通している注意点として下記の3点が挙げられます。

▼測定の手順

・装置は身体の中心で保持し、両手でしっかりと固定するように持つ

・マーキングした測定点に対し、反動をつけずにゆっくり打撃する

・コンクリート面に対し、「常に直角を維持しながら」打撃する

 

コンクリート強度の補正と評価

コンクリートの強度を測るハンマーテストは、煙突の点検項目の一つです。

とはいえ、測定した直後のデータを基に「好ましい結果=安全な煙突」と断定する訳にはいきません。

テスト後に下記の工程を得て、初めて正しい結果が導き出されるのです。

▼強度推定と評価の手順

・推定値の補正

・推定結果の評価

 

ステップ1:推定値の補正

ハンマーテストで得られる反発度(R値)は、さまざまな要因によって影響を受けるため、常に正確な結果が安定的に得られる訳ではありません。

そこで、国土交通省ではこれまで収集した検証データを基に、下記4項目について補正するよう定めています。

各項目には条件・状態別に補正値が設けられており、より正しい強度を算出できる仕組みになっているのです。

▼補正項目

・平均値と異常値の処理

・含水補正

・角度補正

・強度推定の方法

 

ステップ2:推定結果の評価

国土交通省がハンマーテストに対して定めている品質評価の基準は、主に下記の2点です。

▼品質評価の基準

・1構造物あたり、3箇所で反発度を測定する

・数値が安全範囲に満たない場合は、3ステップで再検証を行う

テストの結果が、「平均値≧σck」かつ「各試験結果≧0.85σck」だった場合は、「この煙突のコンクリート強度は問題がない」と判断できます。

 

一方、測定結果の値が安全範囲に満たない場合は、下記の順番に沿って再点検・再調査を行わなければなりません。

▼「平均値≧σck」かつ「各試験結果≧0.85σck」に満たない場合

・ハンマーテストが正しく行われたか再確認

・測定箇所周辺で、5箇所の再測定

・コア採取など、より詳細な調査を行う

 

まとめ

シュミットハンマーテストは、煙突の主要材質であるコンクリートを非破壊で、推定強度が測定できる点検方法です。

サンプル採取が必要な直接破壊検査のように、点検後に補修工事を行う必要もありません。

特に工場などでは、直接破壊検査の事後処理が不十分だったため、コンクリートの落石による事故も報告されています。

定期的な点検が不可欠なコンクリート製の煙突だからこそ、より安全な手法が考案されています。

twitter facebook instagram